レンタルあやちゃん始めました

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魔法のドーナツ(ショートショートその13)

 

 

「どうしてあの日キスしたの?」なんて、

この世の問いの中でも上位に食い込むであろう愚かでくだらない質問だ。

 

 

私はコーヒーにミルクを2つ入れてそれをストローでくるくるかき混ぜながらこう答える。

「あなたは目の前にはいどうぞって出されたこのドーナツを食べる?食べない?その答えはそれに似てるよ」

 

 

「ねえ君はさ、誰かを本当に好きになることなんてあるの?」

ドーナツの穴から私を覗きながら、少し呆れたように、そして心底不思議そうにその人は小さく笑う。

 

それにはつい私も笑ってしまった。

2人でけらけら笑って、昨日の出来事とか今日の予定とか夜ごはんの希望とか、いつもの会話をしていつものドーナツを頬張った。

私は彼の大好きな宇宙や天体の話を聞くのが楽しみだった。

家の隣にあるミスドのドーナツを毎朝一緒に食べるのが私たちの日課だ。

彼は決まってオールドファッションとホットコーヒー、私はフレンチクルーラーかたまにポンデリングとアイスコーヒー。

私たちは1年前、ここのミスドで出会った。

 

それから私たちはいつもみたいに行ってきますのキスをした。

彼は大学院の研究室へ、私は大学の単位はほぼ取り終えてゼミに行くだけだから最近は専らバイト先のお花屋さんへ。

彼は将来やりたいことがあるみたいで毎日研究に没頭しているけれど、私はなんとなく入った大学に通い、なんとなくバイトをして、ぼんやりと日々をやり過ごしていた。

 

こんななんでもない日がいつまでも続くんだと思ってた。

 

 

 

彼はある朝、ドーナツを頬張りながら言った。

「あのさ、明日からアメリカに行くよ」

 

アメリカ?どうして?」

 

「こないだ書いた論文が認められて、アメリカの研究チームに急きょ呼ばれたんだ」

 

「いつ帰ってくるの?」

 

「それはわからない。ずっと夢だった土星の研究に関われるんだ」

 

「待ってて、とか、ついてこいとか、言わないの?」

 

「君は君の人生を生きてほしい、僕は僕の人生を生きるよ」

 

「このドーナツよりも、もっともっと土星がすきなのね」

 

「僕はこのドーナツと同じくらい、君のこともすきだよ」

 

「それじゃ答えになってないよ。どうしてあの日、、」

私は言いかけてはっとした。

 

「その質問はさ、きっとこのドーナツの味に似てるよ」

彼は優しく笑った。

 

 

「大丈夫、このドーナツは君をいつだって幸せにするから。たぶん僕よりもそれがうまい」

 

 

 

「それもそうね。ねえ、キスは?」

 

 

 

 

 

 

私たちはおそらくそれが最後になるであろう長い長いキスをした。

最後だとわかると、急に愛おしくなるのは何故だろう。

 

そのキスは甘いドーナツのような、そして苦いコーヒーのような、

まるで恋みたいな味がした。

 

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