レンタルあやちゃん始めました

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花と恋(ショートショートその⑨)

 

 

 

花が枯れていく様が好きだ。

花は、人の気持ちに似ている。

花も気持ちも鮮度が命。

そして水をやったり、こまめに光を当てたり丁寧に注意深く見ていないとすぐに枯れてしまう。

放っておいても勝手に咲き続けるような花や恋など、この世に存在しないのだ。

 

私は大学生の頃、ギタリストの彼に恋をした。

私は当時ハタチになるかならないかくらい。彼はたしか、20代後半くらいだった。

くしゃっと笑った顔がミスチルの桜井さんに似ていたから、桜井と勝手に呼んでいた。

出会ったばかりの頃に私が「ミスチルの桜井さんに雰囲気が似てるね」と言うと彼は、「そうかなあ、できれば才能が似たかったよ」と困ったように、少しくすぐったそうに笑った。

私たちはすぐに仲良くなった。私はギターを弾く彼がすごく好きだった。

彼は、自分の夢のために私を幸せにできる自信とお金がないから付き合えないと言った。

だけど彼は数えきれないほど私を抱いたし、いろんなところに連れて行ってくれたし、私は彼のシェアハウスの狭い部屋に転がりこんで一緒に歌ったり笑ったりごはんを食べたりして多くの時間を共に過ごした。

彼の優しいギターの音で目覚める朝も彼の腕の中で眠る夜も幸せだった。彼も私を好きだった。それはもう言葉にしなくても態度や表情や仕草から、苦しいほど伝わってきた。

 

それでも彼は当時私を一度も好きとは言わなかった。私の誕生日をいつも祝ってくれても、私が苦しいと泣いても。なにがあっても認めなかった。私はそれだけがとても悲しかった。私はたぶん、それだけがとても欲しかった。

 

彼と過ごす二度目の冬。

私が彼から離れる決意をした夜。

彼は私をいつもよりほんの少し乱暴に抱いた。そしていつもよりたくさんキスをして、ひとつになったまま、彼は泣いた。

私は大人の男の人が泣くところをその時初めて見たかもしれない。

そしていつまでも私を抱きしめて離そうとしなかった。

「痛いよ、離して」というと、「いやだ」とだけ言ってさらに強く抱き寄せた。

「そんなに好きならさ、私が桜井を好きなうちにちゃんと捕まえておけばいいのに。ばかだなあ。」と、抱きしめられたままひとりごとみたいに私が呟くと次の瞬間、

彼が小さな声で放つ言葉が宙を舞った。

「俺にあなたは勿体ない」

若いあなたの将来を奪いたくない、と。

私はその言葉が悲しかった。彼からそんな言葉聞きたくなかった。

それなら嫌いって言われたほうがまだましだった。

私は彼に何もかも奪われたかった。奪われたかったのに。

 

最後に彼の髪を撫でて、「たくさん愛してくれてありがとう」と言ってさっさと服を着て、もこもこパジャマのワンピースと歯磨きセットを鞄に詰め込んで部屋を出た。彼はこっちを見なかった。

雪の降る白い夜だった。

 

 

 

彼はたぶん知らないけれど私は当時、15人ほどボーイフレンドがいた。帰る家もいくつもあった。だって彼とは『付き合っていない』から。

それはとても自由で、それはとても不自由だった。彼が好きだから他の人から告白されても付き合うことはしなかった。

私は寂しさを埋めたかったし、私は好奇心が旺盛だった。

 

そして桜井と別れてすぐに素敵な恋人ができた。

 

あれから何年経ったかわからないけれど、桜井から今でもたまに連絡がくる。

 

そして彼は私を好きだと言う。

でももう私は彼を好きではない。

 

 

 

 

私は花が枯れていく様が好きだ。

まるであのときの自分を見ているような気になる。

あのとき私の意気揚々と美しく咲いていた鮮やかで艶やかな花は、

少しずつ少しずつ枯れていって、やがて朽ち果てた。

 

 

儚く散った想いは、もう二度と戻らない。

花が枯れたらもう元には戻らないように。

 

私は、恋の終わりが好きだ。

終わるから、また新しくはじまる。

 

あのとき、私は彼に恋をした。

あのとき、でなくてはだめだったのだ。

枯れた花にいくら水をやっても、陽を当てても、どう考えてもなにもかもが遅すぎるのだ。

 

 

だけど私は彼との時間を無駄だったとは全く思わない。

だって、私は彼を全力で好きで、全力で想いをぶつけて、全力で恋をした。

大人になるとあんな日々はもう過ごせない。

あのときほど綺麗に咲いた花があっただろうか。

あんなにも後先考えず人を好きになることが、この先あるのだろうか。

 

だけど私は『あのとき』に、『あのときの彼』が欲しかったのだ。

今はちっとも欲しくない。今の彼に興味もない。

今欲しいのは速乾性のあるドライヤーと、ワインレッドのコートと、甘くとろける焼き芋くらい。

 

人の想いも花も儚いから、美しいのだ。

儚いからこそ、いまこの瞬間を大切に生きたいと強く思う。

 

だから私は、叶わなくてもいいから想いは伝えたい。

 

そしてもし叶うのならば、枯れるまでそばにいたい。

 

 

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