レンタルあやちゃん始めました

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エンドオブストーリー(ショートショートその⑦)

 

「次の小説さ、家族とか自殺とかそういう今までとはちょっと違う重いテーマはどうかな?

絶対に才能あると思うんだよね!」

ベッドの中で私を見つめながら興奮気味に彼は続ける。

私が最近趣味で書いている小説についての提案だった。

 

「昨日ささっと書いて送ってくれた小説を読んで確信したんだ、俺はお世辞は言わないからさ」

 

家族、自殺。私はあまりにピンポイントすぎる彼の発言に、少し固まってしまった。

そして、ずっと言えずに1人で抱えていた出来事を打ち明けることにした。

 

父に多額の借金があること。それが原因で兄が自殺未遂をしたこと。家族が死にものぐるいで働いていること。私が家族を助けたいと思っていること。

 

いつも陽気な彼もさすがに驚いて、漫画みたいな想像通りのリアクションをしたあと

「君がこんなに苦しんでるのに、髪を撫でるくらいしかできなくてごめん」

私の涙を指でそっと掬って、本当に申し訳なさそうな声でそう言った。

 

私にとって彼の家は、ある種の現実逃避だ。

彼の家で私は基本、なんにもしない。なんにも考えない。

彼の作る美味しいごはんを食べて、面白い彼の話を聞いて笑って、優しい彼に全力で甘える。

だからここでそんな重い話はしたくなかった。

でもそれって現実と向き合わずにただ逃げてただけなのかもしれない。

もしかしたら彼ともちゃんと向き合えてなかったのかもしれない。

 

彼は正直最初、恋愛対象じゃなかったし、性の対象でもなかった。

浮き沈みのない明るい性格が人として好きで、とにかく空気みたいに居心地が良かった。

だからよく一緒の時間を過ごした。

初めて彼の家に泊まったときも、別に何もないだろうって思ってたけど、一緒に寝ていたらおっぱいを触ってきて本当にびっくりした。

男の人なんだって意識した瞬間だった。

今でも笑ってしまうんだけど、触られてびっくりして、何するの!って少し怒ったあとに彼の腕にぴったりくっついて寝ていたら

「あのさ、、いま、どういう感情でそうしてる?」と恐る恐る聞かれて吹いてしまった。

自分の矛盾した行動と、彼の真面目さに。

たしかに、、って思ったけど、今までそんな野暮なこと聞いてくる男の人ほとんどいなかったから、新鮮だった。

そのとき初めて、ちゃんと彼と自分の気持ちに向き合ってみようって思って、

いつのまにか、気づいたら、もう、大好き、だった。

 

 

「私まだ、その話は書けない、、」

 

「あのさ、逆にそれをフィクションのストーリーとして書き上げて、こうなってほしいって願望を結末にするのはどうだろう?」

 

「それならできるかなあ」

 

「できるよ」

 

「うん、やってみようかな、ありがとう」

 

彼は私を抱き寄せて、なんとか励まそうとひたすら喋り続ける。

「本当にいろんなもの抱えて頑張ってる、頑張ってるよ」

「大丈夫だよ、強くイメージしたことは現実になるから」

「話してくれてありがとうね」

私は彼の胸で思いっきり泣いた。本当は苦しい助けてって誰かに言いたくて、でも言えなくて、ずっとこんなふうに声を上げて子どもみたいに泣きたかった。彼の服はびちゃびちゃになって、彼が大袈裟に冷たーい!ってふざけるから2人で笑った。

もう外が明るかった。私の心も、いつもより晴れてた。

 

 

私はそれから彼の助言通り実体験の、ありのままと少しの願望を小説にして書いた。

そしてそれをありとあらゆる出版社に送りつけたところ、1ヶ月後に本の出版が決まり、3ヶ月後に映画化が決まった。

 

 

 

それを報告しに行くと彼は本当に嬉しそうに、自分のことのように喜んでくれた。

その日の夜はいつもよりちょっとだけ贅沢をして、高級な回らないお寿司を食べて、帰りにコンビニでハーゲンダッツを買ってお祝いして、いつもみたいに手を繋いで眠った。

 

私は有名になんてならなくても、使いきれないほどのお金が手元に残らなくてもいいから、

家族や彼や私の大切な人たちがこの宇宙のどこかでずっと、心も体も豊かで、幸せでありますようにと願った。

 

そしてできれば、楽しくてつい夜更かししてしまう甘ったるくて意味のない愛しい夜が、当たり前みたいにこの先も続けばいいなと思った。

 

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