レンタルあやちゃん始めました

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私のスーパースター(ショートショートその④)

 

 

その人は、アーティストだった。

駆け出しとかではなくて、まあまあ有名な。

ファンもたくさんいて、若い女の子たちにキャーキャー言われているような。

 

でもいつのまにかほとんどテレビを見なくなった私はその人を知らなかった。

彼が私に名駅のスタバで声をかけてきたのは、忘れられない初恋の人の面影があったから。

要するに、顔が好みだったらしい。

彼は執拗に過去に囚われていた。

私は彼をそこから救いたかった。

いま考えれば、他人を救いたいだなんてとてつもなくおこがましい話だ。

 

 

長身で整った顔立ちだが見た目も特別タイプではないし、最初はそれほど興味がなかった。

それどころか自信満々なところも、自我が強すぎるところも、ファンをただの金づるみたいに思ってるところも苦手だった。

それまでナンパに付いて行ったことなんてただの一度だってなかったのに、いま思えば不思議なのだけれど、たぶん当時の私はありふれた平凡な日常に刺激がほしかったんだと思う。

やっぱりオーラみたいなものはあって、

この人はもしかしたらここから連れ出してくれるかもしれないと期待した。

その期待を彼は決して裏切らなかった。

出会ったその日の夜にライブに強引に招待されて、無料だし暇だしまあいいかくらいの気持ちだったのに、

関係者しかいないVIP席に案内され彼のステージを観た瞬間、私は彼の大ファンになってしまった。

彼は、まるで息をするように歌って、踊った。それはもう本当に楽しそうに嬉しそうに。私は胸が高鳴って、目が離せない。一瞬も逃したくない。

そして彼は会場につめかけた観客を1人残らず魅了した。

そのスター性はもう才能としか言いようがなかった。

私は歌うことが好きだった。バンドを組んでメジャーを目指したこともあった。

今までいろんなアーティストのライブを観てきたけれど、自分が音楽と離れてからはライブにもめっきり行かなくなったし、

こんなにも楽しいそれを未だ嘗て観たことがなかった。

彼は日本で唯一無二の天性のセンスと歌唱力の持ち主だった。

私なんでこの人のこと知らなかったんだろう。

私は簡単に、彼の歌声に恋をした。彼の思う壺だった。

でもこんな才能を見せつけられて、恋に落ちない女なんて果たしてこの世にいるのだろうか。

 

 

彼は東京に住んでいて、名古屋で仕事があるときは毎回、愛車のフェラーリで迎えに来ていろんなところに連れて行ってくれた。

彼は見栄っ張りでかっこつけだった。

私は柄にもなく、彼と会うときは背伸びしてシャネルのバッグを持って慣れないヒールを履いた。

彼に少しでも近づきたかった。

信号待ちの車の中では必ずキスをしてきた。私はそれが少し鬱陶しくて、だけどキスをねだる彼が可愛くて、彼のクルマの助手席がとても好きだった。

 

彼は私の歌をよく褒めてくれた。

それで、いつかまたタイミングが来たら自分の歌を歌え、俺が聴きたいからって何度も言ってくれた。

 

それから彼は、いろんな場所で私を抱いた。

車の中、彼の家のベランダ、別荘のプール、忍び込んだ校舎の体育倉庫、夜景の綺麗なホテル。

そのいつだって、彼は私を好きだと言ったけれど、彼は自分のことしか好きではなかった。そして彼はいつも愛に飢え、愛を求めてた。

私が彼を想う気持ちは、尊敬と同情に似たそれだった。

何千、何万人から愛されているのに、彼はいつも寂しそうだった。たったひとつを探してた。

でも、そこが彼の最大の魅力だった。

たぶん、闇が深いからこそ、輝くんだと思う。眩しすぎるほどに。

それから彼はおっぱいが大好きだった。

いつも私のおっぱいに顔を埋めてしあわせそうに眠った。

どんなスーパースターも偉人も普段はただの男の子で、セックスとおっぱいが好きなんだなあと彼の寝顔を見ながらぼんやり思った。

 

 

そんなある日、私の存在が一部のファンにバレそうになったときがあった。

「お前のせいで俺の人気が下がるとこだった」

彼は掌を返した。

ほらね、結局みんな自分が1番可愛い。

かくいう私ももちろんそうだ。

「そう、じゃあもう私はあなたの世界から消えるね」

それがその時の私のせいいっぱい。これ以上傷付きたくなかった。

私は泣かなかったし、腹いせにフライデーに彼の情報を売るなんてばかなこともしなかった。(白状すると一瞬だけ迷ったが。)

 

 

それから私と彼が会うことはなかった。ライブにも行かなかったし、連絡を取り合うこともなかった。

もう2年も前のこと。

悔しいけれど彼の作品は好きだ。彼の才能が死ぬほど好きだ。

新曲を聴くたびにそう思うのだが、彼のすごいところは毎回最高値を軽く超えてくるところ。

想像以上の曲をポンポン生み出してくる。

彼はいつも自信家で自己顕示欲の塊だ、だけどいつも必ず有言実行する人だった。

 

私は彼と離れてから、もう一度歌うことを決めた。

私は彼と出会ってやっと自分の人生に向き合って、本気で生きることにしたのだ。

2年近くかかってしまったが最近、大手レコード会社との契約が決まった。

人間、本気になればなんだってできるんだな。

あの日スタバで人生つまんないって嘆いてた頃からは想像もつかない場所にいる。

いつか彼を追い越してやるって思ってる。

だけどそんな投げやりに生きてた女に声かけてくれて見つけてくれてありがとうとも思ってる。

 

 

そういえばそんなこともあったなあと真夜中のベッドの中で少しノスタルジックな気分になっていると突然電話が鳴った。

その人のことを考えていると、その人にばったり会ったり連絡がくるこの現象に、名前がもしあるのなら教えてほしい。

私の携帯に彼の名前が表示されるのは、実に2年以上ぶりだ。

私はそっと深呼吸して平静を装う。懐かしい声にとろけそうになる。

 

「久しぶりだな、元気?」

「元気だよ、そっちは?」

「ちょっと会わない間に太ったんじゃないか?ラインのアイコン、まんまるじゃん」

「うざ、関係ないでしょほっといてよ」

「いま名古屋だよ、会おうよ」

「いま何時だと思ってるの?無理だよ」

「なんで?タクシー代払うし来てよ、うまい寿司とか肉とか食べよう」

「私は呼ばれたら飛んで行くデリヘルじゃないし、こんな時間に食べたらもっと顔丸くなる」

「嘘だよかわいいって、照れ隠しだってわかるでしょ?それに俺はデリヘルなんて絶対いやだ、きたない」

「いやどう考えてもあんたの歪んだ性格とゴムもつけずに遊びまくってるそのチンコのほうがきたないよ」

「なにそれひっでーなあ。笑  ねえ。新曲聴いた?」

「ちょうど今日聴いてた!相変わらずほんと天才だね、超よかったよ」

「だろ?もっと褒めてよ」

「すごいすごい。キムタクの映画のタイアップなんて、本当にすごいよ、がんばってるね」

「抱きしめてそれ言ってよ」

「うん、そうしたいけど、今日は行かない」

「なんで」

「なんでも」

「そう、じゃあ、次は3年後な」

「わかった、また3年後」

 

彼は不服そうに電話を切った、

私は3年後を楽しみに、眠りについた。

 

 

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